【はじめに】本記事では、前回の「計画・判断編」に続き、昭和48年築・検査済証なしの店舗兼住居ビル(6階建て鉄骨造)におけるエレベーター設置工事の事例をもとに、現場での調査手続きや是正工事の実務的なポイントを解説いたします。実際の現場調査でどのような対応が必要になるのか、また工期や費用を抑えるための管理体制について詳しくご紹介します。
方針決定後の「現場調査(躯体調査)」や「指定確認検査機関との協議」においては、古い建物特有の現地条件や法令上の手続きが存在します。
今回は、現場で実施される「破壊検査」や「アスベスト(石綿)対策」、鉄骨の接合部を調べる「超音波探傷試験」、さらに確認申請に向けた「是正計画」の作成と一括管理の重要性について解説します。
1.破壊検査の手順とアスベスト(石綿)への対応
ガイドライン調査(法適合状況調査)は、目視を中心とした「意匠調査」と、建物の骨組み(躯体)の強度や状態を直接調べる「躯体調査(構造調査)」の2つに分かれます。
鉄骨造の建物では、鉄骨の柱や梁が内装材(石膏ボードや天井材など)で覆われているため、そのままでは状態を確認できません。そのため、構造設計士と協議した上でサンプリング箇所を選定し、壁や天井を部分的に撤去して鉄骨を露出させる「破壊検査」を実施します。

耐火被覆材におけるアスベストの確認と対応
昭和40〜50年代の鉄骨造建物では、耐火被覆材としてアスベスト(石綿)が含まれているケースが多く存在します。本事例におきましても、解体範囲の耐火被覆からアスベストが確認されたため、事前に定められた法令に基づき安全対策を講じる必要が生じました。
調査会社が安全に施工・調査を行うため、事前に専門業者による適切な養生と対策工事を実施することが不可欠となります。
費用と工期を考慮した「部分撤去・封鎖処理」
建物全体のアスベストを全撤去する場合、費用と工期が非常に大きく膨らみます。そのため、本工事では将来のリニューアル計画や補強工事で触れる可能性のある範囲をあらかじめ予測・選定し、必要な範囲に絞った「部分撤去」および「封鎖(封じ込め)処理」を行いました。
このように適切な範囲設定を行うことで、安全性を担保しつつ、調査環境を速やかに整えることが可能となります。
2.躯体調査における「超音波探傷試験」と構造診断
安全な作業環境を整えた後、専門の躯体調査会社による精密検査を実施します。
鉄骨造の構造安全性において特に重要となるのが、柱と梁の接合部(溶接箇所)の状態です。建築当時の施工状況によっては、内部に気泡や傷などの「溶接不良」が存在する可能性があり、これらは外観の目視だけでは判断できません。
音波を用いた非破壊検査の実務
溶接部の状態を確認するため、専用の計測機器を用いた「超音波探傷試験(音波調査)」を実施します。超音波を金属内部に浸透させることで、内部の傷や接合状態をミリ単位で把握することができます。
調査レポートに基づく耐震補強計画の策定
採取した各種寸法データや超音波探傷試験の結果は、詳細な調査レポートとして取りまとめられます。構造設計士はこのレポートに基づき耐震診断を行い、現在の建物が保持している耐震性能を算出します。その上で、新耐震基準と同等の安全性を確保するために必要な補強部材(耐震壁やブレースなど)の配置計画を策定していきます。
3.指定確認検査機関への「是正計画」の作成と間取り調整
躯体調査と並行して、指定確認検査機関による建築当時の法令への適合チェック(意匠調査)が行われます。これにより、現行基準や当時の基準に対して不適合となっている「要是正項目(指摘事項)」が提出されます。
ここで留意すべき点は、指定確認検査機関は「不適合箇所の指摘」は行いますが、「どのように是正・補強すべきか」という具体的な改善案までは提示しないということです。
昭和48年当時の建築基準法に基づく是正計画
指摘された項目に対し、建築当時の基準(本事例では昭和48年時点の法令)に遡って、具体的な是正方法を計画するのは設計者側の役割です。
また、是正・補強工事の内容は、お部屋の間取りや日常の動線に影響を与えます。例えば、補強用の柱やブレース(筋交い)を設置する際、有効スペースが狭くなったり、窓や開口部の位置と干渉したりすることがあります。そのため、複数の補強案を比較検討しながら、使い勝手を損なわない最適なレイアウトを設計側で調整していく必要があります。
4.検査機関内の部署連携と「一括管理(一気通貫)」のメリット
工事を滞りなく進める上で極めて重要な要素となるのが、調査・設計・申請・施工までを「一括して管理できる体制」です。
一般的に、指定確認検査機関の内部であっても、「ガイドライン調査(法適合状況調査)を担当する部署」と「エレベーター等の建築確認申請を審査する部署」は分かれています。
部署間の認識齟齬による手戻りの防止
それぞれの部署に対して事前の相談や十分な情報共有を行わずに進めてしまうと、ガイドライン調査段階で承認された内容が確認申請段階で指摘を受け、計画の修正や手戻りが発生するリスクがあります。
また、「調査」「設計」「施工」をそれぞれ別の会社に個別発注(分断発注)した場合、各社間の連携不足から「是正工事をした箇所を、あとの設備工事で再び撤去する」といった無駄な二重工事(手戻り工事)が発生し、余計な費用や工期がかかってしまうケースがあります。
弊社のように、ガイドライン調査から関係機関との協議、確認申請手続き、実際の補強・建築工事までを自社でトータルに管理することで、部署間の調整を円滑に行い、不要なコストの発生を防ぐことができます。
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